ありふれたマンションの屋上。
私はひとりで、街を見下ろしていた。


沢山の人が行き交う様子が見える。
ここから見ると、水槽の中にいる魚を見ているような気持ちになってくる。


ふと、空を見上げた。
空は相変わらず青い。
今日は雲一つない青空だから、余計に青さが目立つ。


そうして空を見上げていると、ドアが開く音がした。


知らない人が来たか、と身構える必要はない。
ここに来る人はひとりしかいない。


「香音」


私を呼ぶ声に、振り向く。
薄手のカーディガンを羽織った彼は、私の隣に並んだ。


「また外見てたの?」

「うん。綺麗だよ、今日。雲一つないから」


もう一度空を見上げると、彼も同じような動作で空を見上げた。
ほんとだ、という呟きが隣から聞こえてくる。


私は上げていた視線を下に戻した。
未だ空を見続けている彼の横顔を見つめる。


「……なに」

「いや、ちょっと昔のこと思い出してたの」