そんな天のことなど気にもせずに話を進める響。天の目を見つめて、カップを握る手にそっと優しく触れる。

「俺はおまえのこともっと知りたい。おまえが俺を男として意識しないなら、意識させてやるよ」

 そして顔をゆっくりと近づけてくる。天は目を見開いて身動きが取れない。響の顔が近づいてくるのを黙って見つめることしかできなかった。あと少しで唇が触れそうな距離になった時ーーー天は「すごい」と声を漏らす。

 その声に響はピタリと動きを止めた。

「あ?」

「かっこいいと様になるんですねぇ、これはいいネタになります」

 うんうんと頷く天。スマホを取り出してすかさずメモをとる。その一連の動きを見て、響は声を出して笑った。

「なんだそれ、おまえすげぇな」

 やっぱり面白い。気に入った。もっと一緒にいたい。いろんな顔が見たい。そんな思考が巡り、機嫌をよくした響。体を元の位置に戻して、コーヒーを飲み直す。天はそんな響に首を傾げながらカフェオレを一口飲んだ。

「何がですか?」

「いや……いいわ」

 そして響は席を立つ。まだ残っていたコーヒーはそのままに伝票を持ってレジに向かう。天は慌てて追いかけると会計をしている響の後ろから声をかける。

「あの!自分の分は払います!」

「いいって。俺が連れ出したんだし」

 そんなやりとりをしつつ、結局天が折れて店を出る。歩きながら響は隣の天に目をやる。特別綺麗とかそういうのはない。けれど、たった数時間一緒にいて飽きない相手。

「なあ、このあと時間ある?俺とデートしない?」

「は?」

 天の反応に響は吹き出す。やっぱりこいつ面白いわと思いながら、もう一度天を誘う。

「あれ、まだわかんない?」

「……デートって」