葵の表情にドキッとする天。キュンを与えられるこの距離感は心臓がもたないくらい恥ずかしいのに、何故かその顔はもう少し見ていたいなと思っていた。

 
そんな天の髪を葵は静かに撫でる。まるで壊れ物を扱うかのように優しく。その感覚が心地よく、天は目を閉じる。ひどく、安心すると思った。だが次の瞬間ーーー

「そない無防備やと、食べられてまうで?」


 そう言って笑う葵に天はハッとして勢いよく立ち上がる。葵は微笑んだまま「戻りましょうか」と立ち上がり先に席へ歩いていった。

 天はしばらく動けず、心臓の高鳴りを抑えようと深呼吸を繰り返していた。

「あ……危なかった」

 もしあのままだったら何をされていたかわからない。でも少し期待する自分もいるわけで。なぜ期待してしまうのか、小説のネタにしたいからだと無理やり自分を納得させる。

 このときめきは小説に還元する、それだけ、そのはず……天は複雑な気持ちを抱えて席に戻ったのだった。