戸惑う葵に天は顔を真っ赤にしつつ、ニヤリと口の端を上げた。

「安岐くん、キュンした?」

 してやったりと言った様子の天に、葵は困ったように微笑み返した。

「ええ」

 その一言を聞いて天は嬉しそうに目を細める。いつも心を乱してくるからお返しにと自分がキュンキュンするのと同じようなことをしてみれば、効果は抜群だった。そして満足したのか腕を離したが、葵が動かない。

「あのー……安岐くん?」

「……あかんなぁ。揶揄うなんて、赤音さんは悪い子やな」

 天をもう一度抱きしめ、葵が静かに呟く。その声は低く掠れて、耳元で聞くと、とてつもなく色っぽい。天はゾクゾクと腰が砕けそうになる。

「悪い子には、お仕置きや」

 そう言って葵は天の耳にそっと息を吹きかける。その瞬間、甘い痺れが身体中を駆け巡り、天は声にならない声を上げた。

「っ……!」

 その反応に葵は気をよくして、天の体を離す。未だ立てずにいる天を見つめて、微笑む。

「勉強を頑張った赤音さんへのご褒美と先日の俺へのご褒美ということで。ごちそうさまでした」

 揶揄う葵に天は何も言えない。ただ、またしても葵にキュンをしてしまったという事実だけが残った。

「っ……安岐くんのバカ」

「赤音さん、顔真っ赤ですよ?」

「……もう!」

 天は頬を膨らませて葵を見るが、その顔はやはり赤いまま。そんな天を見て葵はまた笑ったのだった。

 天はこれがなんで葵へのご褒美になるのか疑問だったが、本人が満足そうにしているのでよしとした。約束も果たせたし、と無理やり自分を納得させる。思いもよらないキュンも味わえたし、小説のネタにしてやろうとすら思っていた。

 天の心が手に取るようにわかるのか、葵はふっと目を細める。

「ほんまに、赤音さんは可愛ええな」