そこにいたのは葵だった。本棚に両手をついて、天を守るように盾になった葵。そのまま膝をつけば、バランスを崩して座り込んだ天とちょうど目線が同じ高さになる。普段少し見下ろしているからか、こうして少しの変化だけで、天はドキッとしてしまった。

「う、うん。ありがとう安岐くん……痛かったよね?ごめんね」


 葵に守られたことに恥ずかしさと申し訳無さを感じつつ、天は俯く。しかし、いつまでたっても葵が動かない。どうしたんだろうと思い顔を上げた天。そこには真剣な表情の葵がいた。 

「安岐、くん?」

 思わず名前を呼ぶ。距離が近い。互いの息遣いすら聞こえてきそうなくらいで、天は顔を赤くする。葵の瞳から目が逸らせず、自分の鼓動の音がやけにうるさい。

「っ……」

 葵の顔が近付いてきて、天はきゅっと目を瞑る。すると、ぎゅっと暖かいものに包まれた。葵に抱きしめられたのだ。

「え、ちょっ……安岐く、ん」

 思わず声が漏れる。恥ずかしさに身を捩ると、それを逃さないというように更に強く抱きしめられた。

「怖がらないでください」


 耳元で囁かれた声に、ピクッと反応し力が抜ける。葵の体温と香りに包まれ、天は脱力してしまう。

「っ……これ、安岐くん。刺激が強すぎっ……」

「でもキュンってしてるでしょ?」

「っ……!」

 図星をつかれて言葉に詰まる。だって仕方ないのだ、それは本当のことだから。天は諦めたようにため息をついた。

「うぅ……認めるよ」

「はい?」

「……キュンです」

 その返答に葵は小さく笑う。そしてそのまま天の体を離そうとしたが、それを拒むように天が抱きついた。突然のことに驚く葵に対して、天は上目遣いで見つめた。その姿にドキッとするも平静を保ちつつ問いかける。

「赤音さん?どうしたんですか……」

「仕返し」