『それは知ってる。本当ありがとう、勉強に付き合ってくれて』

 まるで二人だけの秘密のおしゃべり。天は葵を見てニコッと微笑む。葵も微笑むが、何かを思いついたのか少し悪戯っ子のような笑みを浮かべ、ノートに文字を書いた。

『頑張ってる赤音さんに、優しい俺がご褒美をあげますね』

 ご褒美。その単語を見て天は葵に顔を向ける。瞬間、先日の出来事を思い出してブワッと顔が赤くなった。

「あっ、安岐くん!?」

 小さく声を荒らげて天は葵に抗議をするが、当の本人は涼しい顔だ。そしてまたノートに何かを書く。

『赤音さん、顔真っ赤ですよ』

 そんな文字を見せながらクスクスと笑う葵。そんな姿に天はさらに赤くなる。このやりとりが恥ずかしくなり、この場から逃げようと立ち上がった。

「っ……!あ、私ちょっと参考書探してくる!」

 そう言って天は奥の本棚へ向かい、皆から見えない離れた位置で深呼吸をする。とにかく一度冷静になりたい。そう思って真面目に勉強しようと参考書を探しだす。意外とすぐに見つかったそれは、高いところに並んでおり踏み台を使わないと届かない。
 
 しかし天はそれが面倒で、自分の身長ならギリギリいけるだろうと安易な考えで台を使わず、無理をして背伸びをした。

「んーっ……」

 あと少し、指先が届きそうなところで、その手に本がひっかかり、バランスを崩して数冊落ちてきた。

「わっ……!?」

 まずいーー痛みを覚悟しそう思った直後、天は何かに覆い被される。恐る恐る目を開ければそこには誰かの肩があった。

「あ、安岐くんっ」

「っ……怪我はないですか?赤音さん」