「そんな、私こそ!いいもの見せてもらえたし、本当におめでとう!」

 天が今日の葵の姿もネタにして小説に書こうと思っているのを察して葵はくすっと笑う。

「いいネタになりましたか?」

「もちろん!でも、それ抜きでも本当にかっこよかったよ」

 天の言葉に葵は微笑み、その後少し残念そうな顔をする。

「赤音さん、ご褒美なんですが……」

「え!ああ、そうだったね。うん」

「引き分けましたので、いただけません。残念ですがまた次回に……」

「え、そっか……」

 天は拍子抜けする。話が出た時は焦ったが、いざなくなると何だか気持ちがモヤモヤする。なぜそんな風に思うのかわからないが、こんなに頑張った葵に何かしてあげたい気持ちになったのは確かだった。

「……私は、あげたいな」

 だから、想いが自然と声に漏れてしまった。口にした途端、天は自分は何を言ってんだと焦り、勢いよく首を横に振る。

「ち、ちが!今のはなんと言いますか……そのっ」

 天の言葉に葵は目を丸くして、そして片手で顔を隠して天から視線を外す。そんな葵に、天はやってしまったと自分の発言を後悔するが、その時ふと葵の耳が赤いことに気づいた。

「安岐くん?その、耳が……」

 天の言葉に葵はバッと耳を隠す。その仕草が可愛くて、思わずクスッと笑ってしまう天に葵は少し眉根を寄せつつ、次には困ったように笑い深くため息を吐く。

「あかん。そんなん言われたら、舞い上がってまうわ」

 葵の口から漏れる関西弁に天は反応する。ふとした時にでるそれに、天はいつもキュンときてしまうのだ。そんな天の心情を察してか、葵は口元に弧を描くと静かに口を開く。

「なぁ、期待してもええの?」


「っ……」

「顔真っ赤やね。ほんまに、赤音さんはかわええなぁ」

「ちょっ、安岐くん」