「……もう、これ以上無様な姿をさらすわけにはいかないんです」

「はっ!そこまでして、女にイイとこ見せたいのか……よっ!」

 響が攻める。その剣さばきに葵は臆すことなく応戦し、そしてーー先程の敗北を巻き返すように、俊敏に動く。

「っ、てめっ……やっぱり女のこと意識してんな!」

「当たり前やん。もう、あの子の顔曇らしたくないねん」

「くっ……!」

 そんな葵の様子に響は驚く。どんなに攻めても、まるで読まれているかのように竹刀が防ぐのだ。悔しさに顔を歪める響に対し、葵はただまっすぐに目の前の相手を見据えていた。


 そしてーー

「一本!!」

 審判の判定が下り、会場がどよめく中、天達は呆然としていた。それはリッカやエマも例外ではなく……

「……うそ……」

「安岐葵が王子に勝った……?」

 先程の試合の動きとは明らかに違った葵に対して二人は信じられないという様子で目を丸くする。天はただ、嬉しくて思わず大きな声を出した。

「安岐くん!おめでとう!」

 天の声を聞き、面を外して葵は拳を突き上げる。そしてニカッと満面の笑みをみせた。


 個人戦も無事に終わり団体と共に表彰式をする。滞りなく終わり片付けやら帰り支度をする中、天はロビーに出てきた葵に駆け寄る。

「安岐くん!すごかった!おめでとう」

「ありがとうございます。でも、団体戦の勝負は負けてしまいました」

 葵は天の言葉に嬉しそうに微笑むが、すぐに眉を下げる。そんな葵に天は首を横に振った。

「ううん、そっちの試合も、さっきのもどっちもすごいよ。だって安岐くん……すごく強かったよ!私、感動しちゃった!」

「……そう、ですか?」

 そんな天の笑顔と言葉に葵は照れて頬を染める。そして少し間を開けて、小さく呟いた。

「赤音さんの声が、俺に力をくれたんです」