嬉しそうにする伊丹に葵は微笑むと、すぐに2階席の天達に気づく。そして少し照れたように笑うと軽く手を振った。そんな仕草に天やリッカもエマも驚きつつ、同じように返す。そんな様子に響が面白くなさそうに舌打ちをした。大将戦までもつれ込んだ試合だったが、これで団体戦の優勝校が決まる。

 続けて個人戦の決勝が始まる。またしても、葵と響の一騎打ち。会場は先程の試合を見ているからか、響の勝ちを確信しているような雰囲気だ。

 そんな空気の中で、葵は冷静だった。先程は天を理由に集中が途切れたと思ってしまった自分を恥じたい気持ちでいっぱいだった。何があろうとこれは自分自身の未熟さの問題であり、天を敗北の理由にしていいはずがなかった。

 葵は、立ち上がり少し振り返り2階席を見る。そこにいる天。その不安そうな顔に、自分がそうさせていることに不甲斐なさを感じてーー……。

「っ……安岐くん!頑張って!」

 響く天の声に葵の思考はクリアになる。その状態のまま、前に進み響と対峙した。

「よお、女の子の声援で浮かれてんじゃねぇだろうな?この勝負、俺が勝ったら、わかってるよな?」

 一方的にとりつけた約束をほのめかす響。しかし葵は揺らがない。今、自分が成すべきことを、ただ貫く。


「負けませんよ」

 葵の纏う空気が変わった。響はそれを感じ取り、ニィっと口の端を上げる。仲間の、見にきてくれた人の、何より天の応援を受けて葵は負けるわけにはいかないと竹刀を握る手に力を込めた。


「はじめ!」

 審判の合図に二人は同時に攻める。響が面を狙うのに対し、葵は小手を狙いに行く。その攻撃に響は驚いたが、それでもすぐに切り替えて葵の攻撃を防いだ。そしてそのまま鍔迫り合いとなる。

「っ……おいおい安岐ぃ、らしくねぇなぁ?男の真っ向勝負に小手狙ってくんなんてよっ!」