「いつも、機械みたいに寸分狂わず相手を叩きのめしてたおまえがさ。こんな風に熱くなるんだなって。人間みたいだ」

「俺は、人間ですよ」

「そうか?完璧すぎてロボットかと思ってたぜ」

 そんな冗談を言う伊丹にごちゃごちゃと考えすぎていた葵の心がスッと軽くなる。ようやく、頭が切り替えられた葵は、伊丹の横に並び目の前の試合を見つめる。次鋒、中堅、副将と互いに接戦で、残るは大将のみ。伊丹は葵に拳を突き出す。

「これは団体戦だ。おまえが負けても、ここで俺が勝てば問題ない。俺たちの勝ちだ」

 どこまでも明るい伊丹。葵はそんな伊丹に救われていた。伊丹と同じように拳を突き出し、コツンと合わせる。

「頼みます」

「おう、任せろ!」

 そう言って二人は拳をぶつけ合った。

 大将戦が始まる。普段の彼とは違う伊丹の雰囲気は天達のいる2階席からみても伝わった。

「剣道してると人が変わるのねー」

「かっこいいじゃん」

 リッカとエマに天も頷く。

「伊丹くん……がんばれっ」


 審判の合図で両者は一礼し、開始線に立つ。
 「始め!」の掛け声とともに先に動いたのは相手だった。伊丹に攻めていく動きに迷いはないように見えたが、それでも隙のない動きをする伊丹になかなか一本を取れない。そんな戦いの様子にリッカやエマも息を飲む。

 接戦の末、伊丹が相手の隙をついて面を決めた。

「っし!勝ったぞ」

 そう言って喜ぶ伊丹に天達も嬉しさで手を振り上げる。葵も小さくガッツポーズをし、戻ってくる伊丹に片手をあげた。それを見て伊丹も面を外して、同じように手をあげハイタッチを交わす。

「次はおまえだな。個人戦、今度は決めろよ」

「はい、わかっています」