リッカが面白そうに言ってきて、天は周りを見渡す。周りのお客も響の名前を呼ぶ人や応援する人がいて、葵を応援している人なんていないように感じるほどだった。

「……安岐くん……」

 そんな中で天は祈るように手を合わせて葵を見つめる。そんな様子にエマとリッカは顔を合わせて笑った。

 試合直前。互いに前に出る二人。響は葵をみてニヤリと笑みを浮かべる。

「びびって逃げたかと思ったぜ」

「その必要はないでしょう。俺は勝ちます」

「は!その余裕がいつまで持つか見ものだな!」

 響は葵に対し不適に笑う。そして試合開始の合図とともに二人は竹刀を交えた。


「っ……!!」

「はっ!どうしたよ安岐ぃ?」

 響の剣さばきに葵は防戦一方になる。そんな様子に客席から声が上がるが、天はただ黙って葵を見守る。

「……安岐くん……」

 葵は負けるわけにはいかないと、響の竹刀を押し戻し、そのまま面を狙う。

「っ!」

 響は咄嗟に葵の竹刀を弾き返し距離をとる。そしてニヤリと笑う。

「やるじゃん」

「……霞ヶ浦さんこそ」

「まあな」

 再び試合が始まるが、今度は葵が攻める。響も負けじと応戦する。そんな二人の様子に天は息を呑む。どちらが勝つかなんてわからない。でも、どちらも譲らない戦いに目が離せなかった。

「安岐ぃ!おまえのお気に入り、赤音ちゃんだっけ?」

 試合中にもかかわらず、審判の判定には引っかからない程度の声量で響が葵を揺さぶる。

「おまえには勿体無いなぁ」

 響の挑発に葵は動じず、静かに返す。

「彼女は物じゃありませんよ。それに……俺は赤音さんを渡す気はありませんから」

 そんな葵の言葉に響は目を丸くし、反対に葵は視界に入った天を見て優しく微笑むとまた試合に集中するように竹刀を構える。全く動揺しない葵の様子に響はつまらなそうに舌打ちをした。