「俺はガチだけど?ま、いいや。敗者には何の権利もないし。俺が勝ったら、貰う。おまえのお気に入り」

 響は一方的にそう言い葵を挑発するとその場を立ち去った。天は呆然としながらその背中を見送るのだった。

「安岐くん、あの人って……」

「……すみません赤音さん。不快な思いをさせてしまって……霞ヶ浦さんにはよく注意しておくので、許してください」

 葵が申し訳なさそうにそう言うので天は慌てて首を振る。

「ううん!全然!でも、あの霞ヶ浦さんって人は安岐くんと仲がいいの?」

「よく大会で会いますが、仲がいいかは……何かと対抗してくるのは確かですね」

「ライバル?」

「そう、なんでしょうね。戦歴も今のところ五分五分ですから」

 その言葉を聞いて天は驚く。あの葵と互角に戦う相手がいることに。そして、さっきの響の言葉が頭を過る。

「あの、安岐くん……私、あの人が勝ったら……」

 天の声が小さくなる。先程の響の貰う宣言を気にしているのかと思った葵は眉を下げて、否定しようと言葉を紡いだ。

「赤音さん、そんなことは決して」

「すっごいキュン展開だよね?取り合われる女子の気持ちってこーなのか。これはいいネタになるよ!」

「赤音さん……」

「あ、ごめん!安岐くん」

 天はネタのことになると周りが見えなくなる。葵にバレてからは更に歯止めがきかなくなっているようで、葵は困ったように笑った。

「まあ、でも……今回はあの人の挑発にのります」

「え?」

「赤音さんを渡しません。負けませんから」

 そう言って葵は天を見て微笑む。その表情に天は何も言えなくなった。顔が熱くなって、上手く言葉が紡げない。あんなの冗談だと思っているのに、葵の表情が雰囲気が、本当にそう思ってくれていると錯覚してしまう。