「おいおい、安岐。余裕だなあ?決勝前に女といちゃついて」

「霞ヶ浦さんも、調子がよさそうですね」

「ばーか。俺はいつでも絶好調だよ」

 一触即発な雰囲気はなく、葵は淡々としている。だが、天はそんな2人にオロオロしていた。

「安岐くん、えっと……」

「赤音さん、この方は霞ヶ浦響(かすみがうら ひびき)さん。同い年で決勝戦の相手の学校の方です」

 心配する天に葵が優しく微笑んで言う。その笑みに霞ヶ浦と呼ばれた男子生徒は舌打ちした。

「おいおい、頑張っても勝てない相手ですーってのも付け加えとけ」

「嘘はよくないですから」

「真面目ちゃんはこれだからっ……で?その女はおまえの彼女か何か?」

「え!いえいえ違います!」

 突如そんなことを言われて天は慌てる。その様子に響は天を睨みつけて、葵に目を移す。葵はいつも通りの微笑みを浮かべて返す。

「いえ、赤音さんとは友人です」

 葵の口から友人と告げられ隣でうんうんと頷く天。天にとって葵は友人であり、キュンの提供者。自分が彼女なんてそんなたいそれたポジションには決していないことを必死に伝える。

 二人の様子に響は「ふーん?」と返してから、何かを思いついたようにニヤリと笑うと天の腕を掴んだ。

「なら、赤音さん?だっけ。俺の彼女になってよ」

「へ?」

「俺はこんな奴より強いしかっこいいからな。それに、一緒にいたら俺ならもっと楽しませられると思うんだよねー」

 響の言葉に天が目を白黒させる。葵はそんな様子にため息をつきつつ、響の腕を掴んで離した。そしてそのまま天を自分の後ろに隠すように立つ。その行動に天はドキッとする。葵の後ろで守られる感覚に鼓動は早くなった。その行動に響はまた舌打ちした。

「おいおい、安岐。人の恋時を邪魔する奴は馬に蹴られるぜ?」

「おふざけが過ぎますよ霞ヶ浦さん」