ワァッと歓声があがる。そのまま個人戦も団体戦も順調に葵たちは勝ち進んだ。あっという間に決勝戦まで上り詰める。

「すごいね安岐葵。さすがだわ。伊丹も副部長っただけはあるわね」

 リッカが感想を漏らせばエマも頷く。

「決勝戦って団体戦して、その後個人戦のがあるんだよね?続けてやるから今休憩が入るってわけか」

 決勝戦前に少しの休憩が入り、その後続けて団体、個人の決勝をするので、選手だけでなく客側も一息つくものが多い。天も先程から妙な緊張感があったのでふううっと息を吐いた。

「なんか、トイレ行きたくなってきた」

「ちゃっちゃと行ってきなさい」

「迷子にならないようにね」

「ならないよ!」


 天は2回席から降りてロビーを通りトイレに行く。そして戻る時にちょうど葵の姿を見つけた。

「あ、安岐くん!」

 天が声をかけると葵は顔を上げる。そしてゆっくりとした動作で天の側へきた。

「安岐くんすごかった!前に見た時より、なんか……その、引き込まれるっていうか。安岐くんから、目が離せなかったよ」

「ありがとうございます。俺も赤音さんが見ていてくれるって思ってましたから、張り切りました」

 天の言葉に葵は優しく微笑みながらそう返す。それに、天は恥ずかしそうに頬をかく。

「この後続けて団体と個人の決勝だよね。そういえば、相手ってどっちも同じ学校名だったけど……」

「そうですね。相手の学校に強い方がいるので、自然とそうなってしまうんです」

「安岐くんもそのパターンだもんね。やっぱり安岐くんも強いから……」

「だーれが、俺より強いって?」


 天の声を遮るようにして、葵に絡んできたのは知らない他校の男子だった。明るい茶髪にツリ目。背は天より高く伊丹よりも低いくらい。急な登場に天は驚いて目を丸くするが、葵は面識があるようで、落ち着いている。