「……すみません。不意打ちでした」 

 天が覗き込むと、葵はぼそりと答える。そして気を取り直して顔を上げた。

「では、そろそろ試合があるので俺はこれで」

 そう言って一礼し背を向ける葵に、天は慌てて声をかける。

「あ!安岐くん頑張ってね!」

 その声に葵は足を止めると振り返った。そして、優しく微笑む。

「はい、頑張ります」

 そんなやり取りを見ていた伊丹達はニヤニヤして言う。

「あれで赤音にその気は一ミリもない、と。罪な女だなー」

「天は恋愛ってのをわかってないのよ」

「天の話だと安岐葵の方がキュンキュンさせてくるって騒いでたけど、今日の感じをみると天もなかなか爆弾落としてるね」

「これは、安岐も大変だな」

 天と葵に聞こえないようにそう話す3人はニヤニヤしながら葵を見る。そんな視線から逃げるように、葵は足早にその場を離れた。

「じゃ、俺も行くわ。俺の応援もよろしく」

「うん、伊丹も頑張って」

 3人に手を振り伊丹も葵の後に続いた。



 試合開始のアナウンスが流れる。それぞれ礼をして試合が始まった。普段から冷静に周りを見れる葵は、今日は一段と相手の動きがよく見えると思った。剣先のブレがないかどうかを確認しつつ、相手の隙を伺う。相手は葵と同じ2年。しかし、その剣捌きは経験者のそれだった。

「っ!」

 相手の鋭い一振りがくるのを咄嗟に防ぐ。そして、そのまま鍔迫(つばぜ)り合いになった。

「くっ」

「うおぉぉぉ!!」

 相手は雄叫びをあげながら押し切ろうとする。それを必死に堪えながら、葵は相手を観察するように見る。
 そして、タイミングをみて一気に力を抜いて相手のバランスを崩すと素早く胴を打ち込んだ。相手は悔しそうにする。そのまま2本目も葵が取り、試合を終えた。

「ふう」