天達のいる二階席についた葵は声をかける。人が多くいる中でもよく通るその声に、天は振り向いて顔を明るくさせた。

「安岐くん!試合前なのに大丈夫なの?」

 天は葵が来てくれたことに喜び、思わず駆け寄る。その嬉しそうな表情に、葵も自然と顔が緩んだ。

「はい、大丈夫ですよ」

 そう言って微笑む葵に周りの女子達が色めき立つのがわかった。しかし、葵は全く気にすることなく、後ろの伊丹が茶化す。

「おいおい安岐。こんなところでファン作るなよ」

「俺はそんなつもりはないですよ」

 伊丹に淡々と返しつつ、安岐は天の友人二人にお辞儀をする。

「今日は来ていただきありがとうございます」

「いいえー、天がどうしても試合見に行きたいらしかったので」

「そうそう。私らがいるから天の心配はしなくて大丈夫だよ」

 リッカとエマは笑ってそう返す。天に見てほしいが一人ではまた誰かに絡まれるのを心配していた葵は、今日ついてきてくれた2人に本当に感謝をした。

「そのようですね。赤音さん、今日は俺のかっこいい姿たくさん見せますからね」

「え?安岐くんはいつもかっこいいよ?」

 天はキョトンとして、さも当たり前だとでもいうようにそう返す。それを聞いた4人は目を丸くした。伊丹はぴゅーっと口笛まで吹いている。

「ちょっと天、あんたそれわざとなの?」

「天然って怖いね」

「え、なに?私なんか変なこと言った?」

「天は気にしなくていいのよ」

 リッカがそう言って天の肩を叩く。エマもそれに頷いた。

「うん。天はそのままでいてね」

「え?う、うん」

 3人の反応に戸惑いながら、しかし褒めてくれたことはわかったので、天は素直に頷いて返すのだった。そして葵の方を向く。するとそこには、手で顔を隠す葵の姿があった。ほんのり耳も赤い。

「安岐くん?どうしたの?」