葵はそう言ってクスクスと笑う。やっぱり笑っている顔は可愛いと天は思う。こうやってゆっくり話してみれば物腰が柔らかくてなんだか落ち着くし、優しく包み込んでくれる。

 なんだ?この男は?完璧超人なのか?なんだこの恋愛小説のイケメン枠にいそうなキャラ設定は、ネタにしてやる。天がそんなことを考えていると、今度は葵が天に問う。

「赤音さんは、剣道に興味がおありでしたか?」

「……え?私?……あー……えっと……」

 まさか自分がネタ探しのために覗き見していたなんて言えるわけもなく、天は言葉を濁す。そんな天の態度に葵は何かを察したように、ああ!と声をあげた。

「もしかして、文芸部の方ですか?」

「あ、うん」

「やっぱり!」

「え?」

 なんでわかるの?と首を傾げる天に葵はクスッと笑って答える。

「活動の一環として校内散策をして部活動やクラスで駄弁っている人を観察している人がいるって噂を聞いて」

 天はそれを聞いて恥ずかしくなった。まさか自分の行動が噂になっているとは、しかも葵は知ってる人だし……。天の顔が少し赤くなるのをみた葵はまたクスクスと笑った。

「すみません、笑うつもりはなかったんですが」

「……いえ、こちらこそお恥ずかしいところを……」

「そんなことないですよ。真剣に部活動をされてるんですから。赤音さんは恥ずかしがり屋ですね」

 そう言って葵は駅に着くまで他愛もない話をしてくれた。天はその時間がとても楽しくて、ずっと続けばいいと思った。しかし時間は無情にも進むもので、もう駅についてしまった。改札口は目の前である。

「……送ってくれてありがとう。それじゃあ」

 天がそう言って改札に向かおうとしたその時。葵は天の背に声をかける。

「また、道場にいらしてくださいね」

 その声は穏やかで、天は思わずキュンとしそうになった。

「ん?赤音さん?」