天はそう言いながら自分のいちごミルクにストローをさして吸う。その横で葵もペットボトルの蓋を開けた。

「俺はレモンが好きなので、やっぱりよく飲んでしまいますね」

「へぇ、レモンかー。あ、よく言うよね、初めてはレモンの味っ……て」

 何気なく言った天は葵が驚いているのがわかり、そして自分の発言を思い返すと、ぼっと顔を赤くする。

「ち、ちがう!これは違うんだよ、安岐くん!恋愛小説の王道的なアレというか、なんというか」

 天はそう言いながら慌てて離れる。しかし葵はそんな天にさらに詰め寄り耳元で囁いた。

「初めてはレモンの味って……それはどういう意味ですか?」


 葵の言葉に天はますます顔を赤くして俯く。その様子を見て葵はクスリと笑った後、少し背伸びをして天の頭をポンポンと優しく叩いた。そしていつもの優しい笑顔へと戻る。それを見て天はまたいつもの揶揄いだと気づいた。

「酷い安岐くん。また私のこと揶揄ったね」

「すみません。でも……」

 葵はぐっと天の後頭部を引き寄せて顔を近づける。あまりの至近距離に天は息を止めて葵を見つめる。

「そないな顔……俺以外に無防備に見せたらあかんで?」

「っ……!」

 そう言って葵は天の頭を離す。そしていつもの優しい笑顔のまま、天から一歩離れた。

「じゃあ俺はこれで」

「あ!うん……」

 天は呆然としたままそう返すのが精一杯で、葵はそのまま廊下を歩いて行った。
 一人残された天はいちごミルクを一口飲むと、大きく息を吐く。

「はぁ〜……もう安岐くんってば心臓に悪いよ」

 でも最高のキュンだったなと頭を切り替えてスマホのメモに文字を打ち込むのだった。




 葵は剣道場につき、練習している部員と挨拶を交わす。そして、一番奥で素振りをしている伊丹に近づいた。気づいた伊丹は素振りの手を止め、葵に声をかける。