突然のお誘いに天は思わず変な声が出た。そんな天に伊丹は少し笑って続ける。

「俺たち剣道部を見にくる奴はほとんど安岐目当てだからさ。同じクラスのよしみで俺を応援してくれよ赤音」

「ええっ……」

 急にそんなことを言われて天は困ってしまい、返事ができない。伊丹はその様子を理解しているのに、あえて気づかないふりをして畳み掛ける。

「俺じゃダメか?まあ安岐もかっこいいけど、俺も悪くないと思うぜ?」

「あ、えっと……」

「毎日きてくれてもいいぞ。その分会えるしな」

「へ!?」

 天は予想外の言葉に変な声が出てしまった。それに慌てて口を手で覆う。
その様子を見て伊丹が声を出して笑った。そしてポンポンと天の頭を叩く。

「そんな驚くことか?ま、冗談だから真に受けるなよ」

 そう言って伊丹は天の頭をぐしゃぐしゃ撫で回す。天より背の高い彼は自然とそんな動作をして、いつも特定の女子としか喋らない天にしてみれば、見下ろすのではなく見上げる形が何だか新鮮だった。

「それに……赤音、おまえ……たぶん」

「え?」

「……いや、やっぱなんでもないわ」

 伊丹が何か言いかけたのに天は聞き返すが、伊丹はそれを笑って誤魔化した。そして壁にある時計を見て「やべっ」と呟く。


「今日委員会だったから部活遅れるって伝えてあるけど、さすがに長居しすぎた。そろそろ行かないと……」



「赤音さん。それに伊丹」

 伊丹がそう言いかけた時、廊下の奥から葵の声がした。天は振り返りその姿を確認する。葵は微笑みを浮かべているのに、その笑顔になんとなく圧力を感じて怖く見えた。

「あ、やべ」

 伊丹は葵の表情を見て慌ててそう呟くと天から距離をとり、葵に歩み寄る。そして一言二言話した後、逃げるようにしてその場を離れた。