リッカの言葉に天はスマホをとり出して答える。

「うん!おかげで気が楽になったよ。いつどんなキュンが降ってくるかわからないし、書かずにはいられないしね!」

 そう言って笑う天にリッカは考えるような素振りをする。そしてこそっとエマへと声をかけた。

「やっぱり安岐葵が相当器が大きいってこと?それとも、天に対してそーいうこと?」

「いや、こればっかりは何ともね」

 二人のやりとりを見て天は不思議そうに首を傾げる。二人は笑って誤魔化すのだった。



 放課後。いつものように校内散策をする天。歩き回り喉が渇いたので自販機で飲み物を買おうと廊下を歩いていた。

「あ、赤音じゃん」

 自販機の前までいくと、先に購入していた男子が振り返り声をかけてきた。天は一瞬驚きつつ、よくよく男子を見て、なんか見たことがあるなと思っていると相手が苦笑いをする。

「おいおい、まさかクラスメイトの顔も覚えてないのか?」

「あ、いやぁ……お顔も朧げだけど、その……」

「ああ、名前までわかんないのか。俺は同じクラスの伊丹。伊丹幸助(いたみ こうすけ)だよ」

 天の様子を察して男子は笑いながら名乗る。そこでようやく天は先日クラスにきた葵と親しげに話していた人だと思い出した。

「安岐くんと同じ剣道部の人」

「そそ、一応これでも副主将なんだわ」

 黒髪短髪で天よりも背が高く、人の良さそうな雰囲気の伊丹。そんな彼に天もなんとかうまく受け答えする。陰キャ爆発しませんようにと自分自身に暗示をかけながらだったが。

「それにしても酷いよな。俺はおまえのことちゃんと覚えてるのに」

「それは、ごめん。でもよく私みたいな陰キャをご存知で」

「おまえ有名だからな。活動の一環と称して校内の至る所に出没しては、いろんな奴をこっそり観察してる文芸部員って」

「え!」