「……まぁ今はそれで良しとしますか」

「何か言った?」

「いえ、おしゃべりはお終いにして今度こそ寝ましょうか」


 そう小さく呟いて、2人は眠りにつく。天はこのシュチュエーションはネタとしては最高に使えると思ったが、隣で眠る葵をみて、メモを取る気にはならなかった。なぜかわからないが、葵の寝顔は誰にも教えたくない気がしたからだ。

 この感情はわからない。少しくすぐったいような気持ちになった天は、そんな気持ちと共にゆっくりと目を閉じたのだった。



 朝になって先に目覚めたのは天だった。いつも起きる時間に目が覚めたのだ。しかし今日は隣に葵がいる為起こそうかどうか迷う。このまま寝かせておくか悩みつつ視線を横へ移すと、葵の目とあった。どうやら起こしてしまったようだ。

「赤音さん……?」

 寝起きで掠れた声にドキッとしつつ天は平静を装い「おはよ」と返す。葵はそれに対して「おはようございます」と返し、すぐに続ける。

「今日も部活があるので、俺はすぐに失礼しますね」

「そっか、忙しいのに本当にありがとう」

 葵は寝起きだからか緩く微笑む。普段のしっかりしている姿とは違う一面を見れて天はまたしても胸がキュンとなった。



「では、また学校で」

「うん!気をつけてね」

 軽く支度をした葵と玄関まで行き、天は葵が見えなくなるまで見送った後、部屋へ戻る。そしてすぐにメモ帳を取り出し、昨日あったことを書き込んだのだった。

「安岐くん……寝起きも最高にキュンだったな」

 そんな感想を呟きつつ、天は朝食の準備に取り掛かるのであった。鼻歌まじりにご機嫌だったのは、キュンネタが豊富だったからなのか、別の理由があるのか。天にもわかってはいなかった。