さぁて、小説のいい案でも出すかと少し変に折れたスカートの裾を直して天は歩き出す。校門をでたところで、自転車の車輪の音が耳に入る。ああ、端に寄ろうと動けば、案の定横を通り過ぎる自転車。それが何故か、少し先で停まる。なぜ?

 天が顔をあげれば、そこにいたのは葵だった。先程とは違うしっかりと紺のブレザーの制服を身にまとっているのにすぐわかった。わかった瞬間、天は顔を背けたが、遅かった。

「赤音さん」

「……安岐くん?」

「ええ、さっきぶりですね。……今帰りですか?」

「うん……」

 葵は自転車から降りて話しかけてきた。何故まだいる?そして何故自転車から降りる。帰らなくて平気なの?と頭のなかで疑問が浮かぶが言葉にはしない。2人の間に奇妙な沈黙が流れる。もしかしてやっぱりさっきのこと根に持ってる?と天が困り顔で眉根を寄せた。
 
 奥二重で切長の目の天は普段からクールに思われがちであり、少し目を細めるだけで睨んでいるような顔になってしまう。しかし実際には睨むなんてことはしていなく、今のように困り果てているだけだった。

 葵はそんな天の顔を見ても気分を害することもなく、先程と同じように微笑む。

「電車通学ですか?」

「え、そうだけど……」

「それじゃあ駅まで送ります」

「はい?いやいや、そんないいって……」

「もう暗いですし、女性の夜道は危ないですから、ね?」

「……あ、はい……」

 少し強引だが断る理由もなくて結局駅へと一緒に向かうことになる天。葵は自転車を引いて歩く。その姿を見て、天は少し胸の奥がざわめいた。

「赤音さん?」

「あっ、いや……安岐くんっていつも遅くまで部活してるの?」

「ああ、はい。こう見えても剣道部の主将なんですよね」

「……意外です」

「よく言われます」