天は少しワクワクしていた。なにせ自分の家でお泊まり会的なことをする日がくるなんて夢にも思わなかったからである。恋愛小説的には男女が一つ屋根の下となれば、それっぽい展開の一つや二つあるのだろう。
 しかし葵と自分はないなと天は安心していた。葵は揶揄うようなことはしてくるが、それまでだし。天自身も男女お泊まりのネタを手に入れるためだけを考えている。

「あ、安岐くんお風呂入る?」

「っ……いえ、大丈夫です。家に帰った時にすぐにシャワーを浴びたので」

「そう?じゃあ私は入ってくるね。飲み物とか好きに飲んでて大丈夫だから。テレビもどうぞ。それではー」

 天は特に気にせず風呂場へ向かった。その態度に葵がまたため息をついたのを天は知らない。


 30分後、タオルで髪を乾かしながらパジャマ姿の天がリビングへ戻ってきた。パジャマといっても黒のTシャツにスイカ柄のハーフパンツという感じ
で色気は皆無である。それでも普段と違う雰囲気は出てたのか葵の表情がおかしい。珍しく天はそのことに気づいた。

「ん?あれ、あれ?もしや安岐くん……照れてる?え、こんなパジャマ姿に?」

「そうですね……まぁはい」

 葵は照れたような表情をしつつ天に返事をした。その反応が新鮮で天は嬉しくなる。

「安岐くんでも照れるんだね」

「そりゃ、そんな無防備な姿してたらそうなりますよ」

「無防備?ん?なにが?」

 天は全くわからずに首を傾げる。

「いや、気にしないでください。それよりも赤音さんっていつも何時に寝てるんです?」

 葵が誤魔化しつつ、時計を見ながら聞いてくる。天はまあ気にしないでおこうと思い、その質問に答えた。

「日によって変わるけど、だいたい日付変わる辺りかな」

「そんな遅くまで起きてるんですね。勉強とかですか?」


「ちょっと、まあ……はい」