「俺が揶揄っとると思て、そない態度なんやったらさ」

「……う……うん」

 天は葵の雰囲気と距離の近さに戸惑うばかり。そんな彼女に葵は悪戯な笑みを見せる。そして耳元で囁いた。

「それ逆効果やで?」

 その言葉に天の心臓は大きく跳ねた気がした。だがその直後静かに笑いを堪える葵に気づいて天は顔を真っ赤にした。

「あ……安岐くん!」

 天は葵を睨みつけるが、彼は全く動じなかった。むしろ余裕そうに微笑んでいる。それがまた悔しくて天は口を開いた。

「……酷い」

「すみません、少し意地悪してしまいました」

 葵は素直に謝り、天から離れた。

「でも、もうさっきみたいな事はしませんから安心してください」

 その言葉に天は少し不満気にしつつも安堵した。気づけばホラー番組の恐怖心は薄れており、もしかしてこれを狙ってあんなことをしたのかと天は盛大な勘違いをして葵に感謝を伝える。

「でも本当に安岐くんのおかげで怖い気持ちなくなったよ。助かった」

「……お役に立てて何よりです。では、そろそろ帰りますね」

「え、帰るの?」

 思わず天は葵を引き止めてしまう。