「もう、夜の8時をすぎてます」

「そうですね」

「こんな遅くに外出は、不良だよ」

 天の言葉に葵はキョトンとしつつクスクス笑う。

「赤音さんが心細そうだったので、きちゃいました。ダメでしたか?」

 葵は微笑みつつ天の顔を覗き込む。そんなことを言われてダメなんて言えるわけがない。天は仕方なく、葵を家にあげることにした。

「あ〜……もういいよ。中に入って」

「ありがとうございます」

 天の言葉に葵は頭を下げると靴を脱ぐ。そして天に続き部屋の中へと入るのだった。

 リビングのソファに座るよう促してお茶を用意するため台所へ行こうとするが、それは叶わなかった。何故ならまたしてもテレビからホラー番組特有の悲鳴が聞こえたからだ。

「ひいっ!」

 天はその場にあるものにしがみつく。触り心地がよい。ん?と思い目を開けると、それは葵の体だった。

「うわっ!ごめん!安岐くん!」

 天は勢いよく離れ、ソファに座り込む。葵の方を見れず俯く。だがそんな天に葵が声をかけてきた。

「赤音さん」

 名前を呼ばれ恐る恐る顔を上げると葵の視線とぶつかる。その真剣な表情に天は思わず息を飲むのだった。すると葵はふっと微笑みゆっくりと口を開く。

「……めっちゃかわええな」

 その言葉に今度は声も出せず口をパクパクする天。こんな展開恋愛小説で幾度となく書き上げてきた流れ。実際にされるとこんな気持ちになるのかと天は作家としてこのネタを書きたい欲が増す。

 そうだ、逆に考えよう。これはチャンスだ。天はこの2人きりで家にいるというまたとない機会を創作のためのキュンネタを得るチャンスと捉える。

 天はそう考え葵に向き直る。

「安岐くん。とりあえずお茶をいれてくるので、座っててね」

 天はそう言ってテレビを消そうとすると意地悪く葵に声をかけられた。