「へ?ステキ……?」

「あなたの名前です」

「な、まえ……」

 さらりと褒める葵に天は赤くなる。かっこいい……さすがは爽やか運動部。

 これ以上ここにいると身が保たない。天はそう判断して、とにかく覗きの件は謝罪することにした。後から難癖つけられたり、あいつ覗き魔なんて変な噂がたつのは怖い。

「あ、あの、練習の邪魔をしてしまい……その、すみませんでした!」

「謝らなくていいですよ。俺もそろそろ終わりの時間だったので」

 葵がそう言うと同時に校内にチャイムの音が響く。もうそんな時間か、と天は思う。部活は七時までと聞いたことがあるので、これから着替えや片付けなどするのだろう。

 邪魔してごめん、ともう一度謝罪すると葵は気にしないでくださいと笑う。そしてまた機会があったら見に来てくださいねと言って道場の中に入っていった。

 天はその背中を見送りながら、自分の胸を抑える。なんだか胸がドキドキする。これはなんの高揚感だ?と頭に疑問を浮かべつつ、駆け足で荷物を取りに文芸部の部室へ行った。


 部室は4階建ての校舎内の1階。西側にある。既に他の部員は帰宅していたらしく、天の荷物しかない。人数の少ない部活なのに一緒に帰るとかしないのは帰る方向が皆違うからである。
 それに、歩く時に頭の中で小説のプロットを考える天は一人で帰る方が気が楽であった。

 黒のリュックを背負い、天は正面玄関へいく。外に出ればチラホラと部活帰りの輩が数人ずつ並んで帰っているのが見てわかる。おしゃべりをして時折笑うのを遠目にみて、天はお散歩アイテムの骨伝導イヤホンを装着した。音楽も聴けるし、外の音もわかる優れ物。