それは普段は道着で見えないリストバンドのことなのか、それとも今の天に対してなのか。葵の言葉に天はドギマギしてしまう。だが視線をそらすことができない。真っ直ぐな目で見つめられると何故か動けなくなるのだ。こんな顔を、行動をする男が可愛い?いくら背が低かろうと、天にとってはいつだって葵は“かっこいい”男の子である。

「赤音さん」

「……はい」

「俺から逃げないでください」


「……うん」

「約束ですよ?」

 そんな葵の笑顔に天は思わず見惚れてしまうのだった。そして小さく頷く。すると葵がゆっくりと手を離すので天は名残惜しい気持ちになってしまう。……なぜ?そんなことを考えて、答えが出る前に葵が話しかけてきた。

「今日は一緒に帰りましょう。駅まで送ります」

「……うん」

 浮かんだ疑問はとりあえずそのままにして、天は頷く。葵がホッとした表情をしたので天は不思議に思った。

「安岐くんは私なんかと一緒に帰って楽しいの?」

 そう、一緒に帰ると言っても移動中の話題なんてたいしたことを話してない。利益にもならないようなどうでもいい雑談。

「俺は赤音さんと帰る時間が好きです」

 その言葉に天の心はまた跳ねる。先ほどから彼の発言に翻弄されっぱなしで、振り回される。部活に戻る葵の背を見送りつつ天はこの後どんな顔をして、どんな話をして帰ればいいんだと頭を抱えた。