そんな彼の隣に、女子にしては背の高い、若干目つきも悪そうな自分がいたら全く映えないなと天は思う。だからこうやって、その他大勢、モブの位置がお似合いなのだと天は自分を納得させた。

 そもそも、恋愛小説のネタとして接しているのだから立ち位置など気にするのが変だなと思い、天はそっと立ち去ろうとする。このまま目立たずに移動して、でももう一度だけこの目に葵の姿を映そうと顔を上げてーー……。

 天は息を呑む。葵と目が合ったからだ。こんな大勢のギャラリーがいる中で、自分に気づくわけがないと思ったが、葵はどんどんこちらに向かってくる。女子たちの声援が一層大きくなる。天は困惑した。

 葵がもし自分を見つけて来てくれてるのなら嬉しい。けれど、この状況では目立つ。嫌だ、困る。



『ーーなんで、あいつが?』


 もう、あんな惨めな思いはしたくない。


 天は咄嗟に逃げた。剣道場から、向かってくる葵から。……自分の中にある、嫌な過去の出来事から。

 無我夢中で走って、校舎裏の人気のない場所にくると、校舎の壁を背にして寄りかかる。座り込んで肩で息をし、呼吸を整える。

「何してるんだろう、私」

 誰も答えてくれないことをわかっていながらも声に出してしまう。
 ただGWの見学に来ただけなのに、こんな気持ちになるなんて想像もしなかった。葵に嫌な思いをさせたくないから、自分も注目されたくないから関わりたくないのに……と天は自己嫌悪に陥る。

「……でも、安岐くんが悪いんだよ」

 そう呟くと、天は膝を抱えて顔を埋めた。そしてそのまま目をつむる。このまま落ち着くまでこうしていようと思った。そうすればこのモヤモヤとした気持ちも多少はマシになるはず。

 葵が悪いわけないのに、これは自分の問題なのにと天は理解しながら、それでも何かのせいにしないとやっていけない気がしていた。

「赤音さん!」