「ありすぎると私の頭が心がパンクするから困るけど、でも少しなら欲しい!えと、創作意欲が湧くから」

「……ああ、なんだ。そういうことですか」

 天の早口の訴えを理解したのか葵は頷くとそっと天の耳元で囁く。

「ドキドキしたん?」

「ひゃっ!」

 葵の方言と甘い声に天は恥ずかしさから耳を抑える。顔は真っ赤だ。そんな姿をみて、葵は思わず笑ってしまった。そして自転車を前に押し出すと、そのまま空を見る。星空が綺麗で思わず微笑んだ。

「大丈夫ですよ、赤音さん」

 そんな葵の声と姿に天の心臓はまた跳ねる。その顔を直視できないくらいに、すごくドキドキする。ケイトの言っていた「のめり込むな」という言葉の本質が今になってやっと理解できた。

「そのうち、こんなことも日常の1ページになるくらいの瑣末なことになりますよ」

 葵がふっと笑う。その顔を見ながら天は彼の言葉を脳内で反復する。日常的に瑣末なこと……つまり、当たり前にドキドキするのが普通になると?

 ーーなぜ?


「ええと、安岐くん?それはどういう意味かな?」

「言葉のままの意味ですよ」

「ちょーっと理解が追いつかないかな?もう少しわかりやすく」

「それは秘密です」

 悪戯っぽく葵が笑う。その笑顔がいつもと違い無邪気で思わず天もドキッとした。

 ーー安岐くんのくせに! そう心の中で毒づくも、やはりこのドキドキは慣れそうにないと天は思ったのだった。