「最近の凄まじさ、小説にもでてるよねぇ」

「え!本当ですか?ケイト先輩。私の小説、また読んでたんですね」

「うん、凄くキュンってするよねぇ」

 まさか更新したばかりの自分の小説を読んでいたなんて思わなかった天は照れながら笑う。だがケイトには不思議な点があった。

「でもさ……赤音ちゃん」

「はい?」

 ケイトの顔は微笑んでいるが目は笑っていない、そんな不気味さがある。その雰囲気に天も少し固まった。

「……その相手役、誰?」

 そう聞かれた瞬間、天は冷や汗がでる。

「えぇ?ナーンのことでしょうか?」

「赤音ちゃんの恋愛偏差値じゃあのキュンは出せないんだよねぇ、どう考えてもリアルな体験を経てると思うんだよ」

「た、体験!?」

「ねぇ……相手は誰?」

 ケイトの問い詰めるような雰囲気に天は戸惑う。まさかそこに焦点が当てられるとは思ってなかったのだ。そして、その相手が葵だとも言えない。だって、彼は実在しているし、彼と自分のやりとりを小説にしてますなんて恥ずかしくて言えるわけがない。

「えと……」

「……ま、実在の人物とのやりとりを参考にするのはいいと思うよ。リアリティがでるしね。ただ、のめり込みすぎないように」

 ケイトは緩やかな雰囲気に戻り、天にそう助言する。天は素直に頷くが、ケイトのいわんとしていることをイマイチ理解できていなかった。

「のめり込むと、やっぱりまずい何かが?」

「うーん、作家はあくまで生産者であり提供者だからねぇ。ついてきてくれる読者を蔑ろにするようなことはしてはいけないんだよ。例えば」

「た、たとえば?」

「のめり込んで、恋実らず、リアルに落ち込みすぎて、物語を完結できないとか、ね」

 ケイトが冗談めかしていう。しかし、その目は笑っていない。天は冷や汗をかきながら返す。