天は葵の申し出にしどろもどろになる。それはそうだ、嘘なのだから。どうにか次の返事を考える天を見て、葵はふふっと笑った。

「安岐くん?」

「すみません。少し意地悪してみました」

「意地悪?私に?なぜ?」

 天は何故葵がそんな行動をとったのかわからなくて首をかしげる。しかし葵はニコリと笑ったままだ。

「秘密です」

 そんなやりとりに天は少し考えるが、すぐにスマホを取り返してネタをメモする作業に戻る。その姿を見て、葵はまた少し不満そうにしていたのを天の知る由もなかった。

「赤音さん」

 呼ばれて天は顔をあげる。目の前には葵の顔があった。そして、その上目遣いで眉を下げつつ困ったように微笑む。

「無視せんとって。寂しいやん」

 また出た葵の関西弁に天はドキッとするが、葵はすぐにいつもの微笑みに戻る。

「赤音さん、反応がよくていいですね」

「え、揶揄った?もう!……あ、そだ。安岐くん、これ……」

 天は葵に紙袋を差し出した。その袋には有名なスポーツショップの名前が書かれている。そして中には袋があった。

「誕生日プレゼントです」

「本当ですか。わざわざ用意してくださってありがとうございます。開けてみてもいいですか?」

「うん」

 葵は丁寧に袋から箱を取り出した。そして、中を見るなり笑顔になる。

「これ……リストバンドですか?」

「安岐くん、剣道してるし。運動に使える物って考えたんだけど……」

 スポーツをする人の思考がわからない天はいろいろ悩み、実用的な物をプレゼントにと選んだのだが、葵の反応が気になる。しかしそんな天の心配をよそに葵は嬉しそうに笑った。

「ありがとうございます。大切にしますね」

「あ、うん……」

 天は葵とのやり取りでなぜか心が暖かくなる。経験したことのない感情に戸惑っていた。

「赤音さん?」