去年はまだ高校一年生だったために、あまり目立ったような動きは避けていたが、学年が上がると気持ちも大きくなる。去年までは絶対に足を踏み入れなかった体育館や道場が並ぶ中庭を通るのも余裕でしていた。

 そんな天は今現在なぜ頭を抱えているのか。

 全くイイネタがないからである。

 どれも二番煎じになりそうな放課後の男女のいちゃつきや、初々しい新入生の姿やらそんなのばっかだ。

 天はもっと、自分が経験したことのない心躍るネタを探し求めている。ちなみに天の書く小説は恋愛物だ。常にときめきを文字に変換するため、今までまともな恋愛をしたことはない。

 天は何か、何かないかと中庭を彷徨い歩く。すると、どこからか声が聞こえてきた。


 それは何か掛け声のような、そんなもので。その声のする方に自然と天の足が向かう。

 近づくほどに大きくなる声。

「いちっ!……にっ!……さんっ!」

 声のする場所は剣道場。つまり今中にいるのは剣道部の人であり、天の天敵である運動部の陽キャの可能性が高い。陰の者にあの眩しさは辛い。関わりたくはない……が、この声の主の姿は気になる。

 扉は閉まっている。開けたくはない。ならば、覗きだ。天は道場の少し高い位置にある窓から覗くために背伸びをする。こういう時に167cmの身長は重宝する。

 覗いてみると、予想通り中にいるのは運動部の陽キャ……ではなく、天とさほど身長の変わらない、もしくは天より身長の低い男子生徒がいた。

 剣道着を身につけた黒髪短髪の男子生徒が掛け声と共に竹刀を振ればシュッといい音が響く。天は思わず、その姿に見惚れた。

「やば……」

 そんな天の声は、道場の外からでは中にいる男子生徒には届かない。

 しかし、その天の視線に気づいたのか男子生徒は手を止めて、こちらを向いた。そして目が合う二人。

「あ」

「ん?」