その笑顔に逆らうことができず天はおずおずと口を開けた。パンケーキが口の中に入ってくるのを見届けると口を閉じる。そして咀嚼すると口いっぱいに甘さが広がる。

「……おいしい」

 そんな感想をもらす天をみて、満足気に笑う葵はまたフォークを差し出す。それを今度は素直に口に含むと、もぐもぐと食べる天に葵は可愛いと思っていた。

 だから、ぽつりと素が出てしまう。

「ほんまにかわええな」

「……っ、安岐くん?関西弁じゃん!」

 パンケーキを半分こし、葵から差し出されるまま食べていた天は顔を上げる。葵は口元に弧を描いて天の反応に満足そうにした。

「赤音さんの食べる姿見てたら思わず」

「そ、そうなんだ……」

 天は葵の素の言葉と笑顔にドキドキしていた。けれどこれは小説のネタになると思いメモ帳を取り出すが、すぐに葵からスマホを隠される。

「あ!ちょっと!」

「赤音さん、今日はデートなんですから……ね?」

「……っ!」

 葵の言葉にまたドキッとする天。やはりデートなのか!?と叫びそうになった己を抑えたことを褒めたいと天は思った。

 しかし、スマホがないのは困る。ネタを書かないと忘れてしまう。せっかくのネタなのだ。

「少しだけ!少しだけだから、メモとらせて」

「だいたい、先程から何をしてるんです?メモとは?」

 天はぎくっとした。さすがに恋愛小説を書いていて、そのネタにしてますとは言えない。何とか誤魔化さないとと思い天は口を開いた。

「き、筋トレだよ!ほら、よくボディビルダーとかでしてるじゃん?あんな感じの」

「それ今見る必要あります?」

「あるよ!カロリーとったから効率よくダイエットできるように鍛え方のリサーチを」

「それなら俺が教えますよ?」

「え……あ、いや……」