「すみません。軽々しくそんなこと言っちゃダメですよ」

「そ、そうだね……ごめん……」

 葵の言葉に天も反省するのだが、なんだか胸がチクリと痛んだ気がした。しかし、それが何かわからないまま話は方言のことに変わる。

「そういえば、こないだ関西弁でてたね?」

「ああ……あの時は、つい。すみません、失礼なこと」

「ううん!新鮮でよかったよ」

 天はあの日のことを思い出す。葵が自分に対して言ってくれた言葉は本当に嬉しかったのだ。でもその反面、他の子には聞かせたくないなとも思ってしまう。その理由は謎のままだったが。

「俺大阪に住んでて、こっちにきた時に訛りがでると注目されるし、嫌なので。だから敬語にしてるんです」

「なるほど、敬語も似合ってたから全然気にしてなかったよ。でも、そっかそっか……惜しいな」

 天は本当に残念そうな顔をする。葵はわけもわからず困惑した。

「えと、なにがです?」

「安岐くんの関西弁、キュンとしたからまた聞きたいなーって」

「関西弁にキュン……?」

 葵は天の発言に困惑していた。まさか方言が気に入られるとは想像していなかったのだ。だが、少し考えこむ仕草をみせた後、ニヤリと笑う。

「なら、俺のお願いを聞いてくれるなら、また関西弁を聞かせてあげますよ」

「え、なになに?」

 天は身を乗り出す。関西弁効果がこんなにもあるのかと葵は驚くが、使えるものは利用しようと考えて、口を開いた。

「あのですねーー……」




 翌日。ちょうど祝日であり、学校もない。それなのに天は最寄りの駅にきていた。私服でだ。紺のTシャツにデニム。マスタードカラーのロングシャツを羽織って水色のスニーカーを履いていた。そして黒のラウンドミニショルダーバッグを斜めにかけ、待ち合わせの場所を目指して行ったり来たりしていた。