「俺ね、赤音さんが絡まれてるの見て……本当に心臓が止まるかと思いました」

「え?」

 突然の言葉に天は驚いて葵を見るが彼は前を向いていて表情は見えない。だがその耳が赤くなっているように見えて、それがなんだか天には可愛く見えた。自分より背の低い、けれど助けてくれる姿は大きく見え安心する。

「安岐くん……ありがとう」

 天がそう告げると葵はピタっと足を止める。そして、天の手をぎゅっと握り直した。

「やっぱり帰りは送らせてください。さっきの奴らも、まだうろついているかもしれないので」

「で、でも……そんな迷惑かけられないし……」

 天は葵の申し出に渋る。これ以上迷惑をかけるのはと思うから。

 しかし葵は引かない。

「迷惑じゃないですよ。それに俺が心配なんです」

「あ、安岐くん?」

 急に振り返り声のトーンを下げた葵に天は驚き、困惑する。先程絡んできた男に対峙した時と同じトーンの声。怒っている?

「連絡先もわからない、送らせてもくれない。まっすぐ帰ったのかと思えば知らない人に絡まれてる。全然大丈夫じゃなかったですね?」

 まっすぐに天を見ながら葵は詰めてくる。天は言い訳もできない。する気もない。今、天が考えていることは……。

「……イイ」

「はい?」

「いつもの優しい安岐くんと違って、ギャップ萌え」

 こんな時でも天の思考は呑気にそんなことを思った。葵は意味がわからず口を開こうとしたが、天の顔を見るとなんだか頬が赤くなっていることに気づく。

「もしかして……照れてます?」

 その言葉は図星だ。そして天は観念する。

「そう!そうだよ!ギャップ萌えだよ!悪い!?だって安岐くんかっこいいんだもん!」

 開き直った天に葵も驚いたが、それ以上に嬉しかった。自分がかっこいいと言われたことが。だからつい口が滑る。

「なんやそれ」