「あ!ひどい!私は安岐くんに上手にできたのを食べて欲しくて言っただけなのに」

「はぁー……あーもう。そうやな。潰れてないとええけど……」

 そう言って葵は天を離して立ち上がり、ガトーショコラの箱を見る。潰れてはいなさそうなそれを見て、隣から天も覗き込み嬉しそうに笑う。

「良かったー……あ、安岐くんの箱の方は大丈夫かな?」

「ああ、俺のは平気やろ。崩れやすいもんちゃうし。なぁ、これ今食べてええ?」

「え!?うん、いいけど……」

 まさかここで食べるとは思わず天はびっくりする。葵は綺麗にラッピングを剥がすと蓋を少し開けた。ふわっとチョコレートの香りがする。切り分けられた一口サイズのガトーショコラ。葵はそれを指でつまみ一口食べた。

「……甘さ控えめやな」

「安岐くん他の人からもチョコ貰いそうだったから、だからビターチョコ使ってみたんだけどどうかな?」

「うまいで?俺好みの味やし、ありがとうな」

 その言葉に天はホッと胸を撫で下ろした。自分好みと言われると恥ずかしいが、それ以上に嬉しい。天はその気持ちを悟られないように咳払いして誤魔化すと葵のくれた箱を手にする。

「これ、私も開けていい?」

「もちろんええよ。天にあげたんやし」

「……その名前呼び、ちょっと恥ずかしい」

 天は箱を開けながら呟く。中にあるのは可愛い色と形のチョコ。それを一つ口に入れて頬張ると、甘さが口いっぱいに広がった。

「美味しい!」

 天は笑顔で葵を見る。その笑顔にドキッとする葵だがそれを隠しながら笑った。

「そりゃ良かったわ」

「でも、やっぱり名前呼びはちょっと、破壊力がやばいよね」

 チョコを食べながら天が話を戻す。葵は「んー」と何か考えて、口を開いた。


「でも好きやし。二人きりの時はもう素で喋るやろうし、名前で呼んでまうと思うで?あかん?」