いつもと違う呼び方に天の顔は真っ赤になる。そんな天が可愛くて葵は額を離すとそのまま顔中にキスをする。
 髪に、額に、鼻に、頬に……ちゅ、ちゅっと何度も音を立ててキスする葵をなんとか止めようと、天が口を開いた時。それを狙っていたかのように葵の唇が天の唇を塞ぐ。

「……んっ!んんっ!」

 驚いた天は声を出そうと口を開く。しかし葵は離さない。ちゅっと唇を吸われてようやく離れた頃には天は息が上がっていた。

「あ、安岐くん!レッドカード!」

「えー?なんでなん?いきなり退場はえぐない?」


 不服そうに言う葵に天は顔を真っ赤にして抗議した。

「いきなりの名前呼び、キスの嵐。私のハートはキュンが過剰摂取すぎてもう、無理!」

「最初から飛ばし過ぎたか……あかんな、止まらんかったわ」

「もっと優しくして!」

 天は口を手の甲で拭う。まだ感触が残っていて落ち着かない。葵はそんな天の手を取り、そのまま顔を近づけた。

「じゃあ今度からは手加減するわ。だから今の続き……してもええ?」

 葵の瞳に自分が映るのがわかるぐらい距離が近い。吐息がかかるほど近い距離に天の顔が更に赤くなる。しかし、さっきのキスを思い出してしまったら嫌とは言えず、天は小さく頷いた。すると葵が嬉しそうに笑うから、キュンとしてしまう。自分もだいぶ単純だなと天は呆れた。

 葵の顔が近づく。その時天はふと、ガトーショコラのことを思い出した。なぜ今?と思うが天としては、これを渡すためにきたので、思考が一気にそっちに逸れる。

「あ!安岐くん!チョコ!潰れてない!?」

 お互い手に箱を持っていて、そのままこの状況。天はせっかく作ったのにと無事か心配したが、葵は逆に呆気に取られる。今の流れでムードはなくなり、でもそれが楽しいのか葵は大声で笑った。

「ほんま、天はおもろいなぁ。こんなんでムードぶち壊して」