(そら)が想いを紡ぐその時、天の唇に葵が人差し指を当てた。優しく、それ以上は言わないでとでも言うように言葉を封じられる天。思わず上目遣いで見ると、ちょうど葵と視線が合う。

「ーー赤音さん。ここからは、俺に言わせてください」

 天の唇から指をそっと離す葵。いつもの優しい目をして天を見つめる。その目は何かを決意したような、強い意志があった。そしてゆっくりと口を開くと、静かな声で言葉にした。

「俺は、ずっと兄に劣等感を抱いていました。だから負けないように、いつでもしっかりしていようと己を律してましたし、それが普通だと思っていました。赤音さん、初めて大会を見に来てくれた時、覚えてますか?変な人に絡まれて、心配から思わずあなたに詰めるように言葉をかけてしまって」

「うん、覚えてる……あの時の安岐くん、ギャップがきゅんだったよね」

「それです。赤音さんのその言葉で、俺はあなたを意識しました。あんな完璧にできていない自分をいいと言ってくれるなんて、不思議な人だなって。それから、どんどん関わる内に赤音さんの言動が目に留まって、気にかかって……気づけば目で追うようになりました」


 葵は天から視線を外さず続ける。天もそれを黙って聞いた。葵の言葉を一言一句聞き逃したくなくて。

「赤音さんが笑う度に誰にも奪われたくないと、自分だけのものにしたいと思うようになりました。俺の言葉で行動でときめくあなたを見ると、たまらなくなりました。もっと、もっと……俺に夢中になればいいのにと」

 葵は天の手を取る。天はびくっとしたが、抵抗せずにいた。触れ合うところが熱く、鼓動が早くなる。

「こうして触れたいと思うし、触れるともっと求めたくなる。赤音さんにとって、キュンを提供する友達の位置と思われてるのが嫌で、拒否をしないあなたを振り回してしまいました。こんな、自分勝手な欲まみれの人間なんです俺は」