4月、春。桜は散り始め、新入生は少しクラスに慣れ始めたそんな日。

　放課後の学校。教室でお喋りに花を咲かす生徒や部活動に勤しむ生徒と様々な声が飛び交う中で、一人中庭を歩く人物。

　その者は焦茶のボブヘアを掻き乱し頭を抱えていた。その顔はかの有名な絵画の如く今にも叫び出しそうであり、しかし小心者の彼女はそんなことはしなかった。

　女子生徒の名前は、赤音天(あかね　そら)。苗字の“あかね”の方が名前だと勘違いされる時もあれば、“てん”と名前の読み間違い、更には全て繋げて“あかねぞら”なんて呼ばれることも少なくはない。いや、寧ろ多い。

　普通の人からしたらなんておいしい名前なんだ！喋るきっかけになるし、覚えやすい！なんて喜ぶのだろう。喜ばなくても別に平気で受け入れるのだろう。しかし、この本人はそんなこと微塵も思わないような超絶陰キャのヲタクだ。

　人とコミュニケーションがとれないとかは、ない。もう一度言うが断じてない。けれど息苦しさは感じる。天は毎回己を鼓舞して笑顔で乗り切っているのだ。


　そんなまでして関わらなければいいのにと思うだろう。それがそうもいかない。天は、人と話すこと関わることでネタ集めをしているからだ。そう、彼女の書くweb小説の物語のために。

　天は昔から物語を考えるのが好きだった。自分の思い描いた展開、理想の関係、感動的なラスト。欲だけを詰め込んだ作品は自分の手の中にあるだけでは満たされず、ネットに投稿して承認欲求を得ていた。いいねがつけば、そうでしょおおお！とテンションは上がる。

　ネットに投稿し始めたのが高校入学前。小説へ向き合う時間を確保する、そのために天は文芸部に所属している。そして普段からネタを集めるためにこうして校内散策をしていた。