「違うんです!その……俺も同じ事を思っていましたから」

 そう言うと葵はロッカールームに行き、すぐに戻ってくる。手には何やら箱を持っていた。綺麗にラッピングされたそれ。天は不思議そうに葵の顔を見る。

「赤音さんが、小説を頑張っているのを知っていましたから。今日はバレンタインですし、労いの意味も兼ねて甘いものをと……」

 そう言う葵の顔は少し赤く、天は胸がキュンとなる。こんなにも想ってくれている葵に天はもう、言わずにはいられなかった。

「あのね、安岐くん……私ね、今まで恋がわからなかったんだ。恋愛小説を書いていても、キュンやときめきは感じても、それが恋に結びつかなかった。こんな自分なんか誰ともそういう関係になるなんて想像できなかった」

 天は自分の中の想いを言葉にする。今までの自分を思い出して、恋愛にネガティブだった日々を懐かしむ。

「でも、安岐くんは私を魅力的だって、一番だって言ってくれた。こんな、安岐くんとは不釣り合いなはずの私に、何度も優しい言葉をかけてくれて……」

 天は震えていた。声が、体が。この先を言葉にしたいのに、そうすることで何かが変わるのが、何かが終わるのが怖くて。それでも、伝えたいと思った。

「私にとって恋愛ってハードル高くて、謎で。キュンやときめきも皆と共有するから楽しいのにって思ってて……でも今は理解できる。幸せな気持ちも苦しい気持ちも。誰にもとられたくない気持ちも。安岐くんのおかげで知れたよ?」

 天は葵の顔を見れずに俯く。それでも言葉にしたくて、口を開いた。

「だから聞いて安岐くん。あのね、私……」

 天は想いを吐き出す。しかし、それは止められた。葵の指によってーー……。