懐かしそうに葵が言う。その顔は呆れるとかそういうものではなく、思い出を大切に思うような優しい目をしていた。その顔にドキッとした天は離れて、うるさい心臓の音を悟られないように平静を装いつつ葵を見る。

 自分よりも背の低い葵。目も大きく可愛く見えるが、中身は凛々しく時々意地悪に人を揶揄って。でも優しくて……こんな背も高く目つきも悪いモブ顔の自分を、一番だと言ってくれた。天にとって、葵はずっと可愛いではなく、かっこいい男の子だ。

「赤音さん、寒いから道場の中に入りましょうか。今日は急遽自主練になって俺以外誰もいませんから」

 葵の言葉に知ってると心の中で返す。だってそれは伊丹の根回しのおかげだから。天は葵に誘われるまま、一緒に道場の中へ入った。

「こうして練習を見られるのは久しぶりですね。少し緊張します」

 葵が笑いながら言う。天はその後ろで、緊張していた。鞄の中のガトーショコラが潰れてないかなとか、なんて言って渡そうかとかいろいろな事が頭の中をグルグル回っている。

「赤音さん?」

「え、あ……うん。久しぶり、だね」

「はい。でも俺は会えて嬉しいですけど」

 そう言って葵は笑う。その笑顔にキュンとする天だが、すぐに我に返り慌てて鞄の中からラッピングしたガトーショコラを取り出す。そしてそれを両手で持ちながら、意を決して言った。

「……安岐くん!これ、受け取ってください!」


 少し声が上擦ってしまったが、言えたと安堵する天だったが、葵は少し驚いている様子で、プレゼントを見つめる。葵の反応がイマイチよくないと思った天は不安になりながら、葵を見ると目が合った。

「あ、すみません。その……びっくりして……」

「あはは……ごめん、迷惑だった?」

 空気が耐えられなくて天が思わずそう言葉にすると葵は慌てて否定する。