「え!なんでそんな……」


「副主将権限。ダチのために使ってかないとな」

「うわー、あんた職権濫用じゃん」

「でもいい仕事するね」

 呆れるリッカに賞賛するエマ。どちらもその顔は笑っている。それを見て伊丹もドヤ顔をした。

「だろ?赤音、だから安心して渡してこい。誰にも邪魔なんてさせないからな」

 そう言う伊丹は、やっぱり頼りになる友達で。天は笑顔で頷いた。こんなに皆に応援されてるんだから、やるしかない。そう自分を鼓舞して天は放課後、剣道場へ向かう。

 中庭を歩くと声が聞こえてきた。それは聞き慣れた声。その声のする方に自然と天の足が向かう。


「いちっ!……にっ!……さんっ!」

 背伸びをしてお馴染みの覗き穴もとい窓から中の様子を見ると、葵が一人で素振りをしていた。竹刀を振ればシュッといい音が響く。久々の葵の姿に天は思わず、見惚れた。

「やっぱり、かっこいい……」

 そう呟くと天の視線に気づいたのか葵は手を止めて、こちらを向いた。そして目が合う二人。葵は嬉しそうに微笑む。

「赤音さん」

 名前を呼ばれて、天はドキッとする。久々の生声はキュンだなと思いながら、どうやって渡そうと急に焦ってしまい天はあわあわした。

 その様子を察したのか、葵は少し駆け足で道場の外へ向かう。え、こっちくる!?と天は急すぎる展開に動揺して、背伸びをしていた体はバランスを崩す。なんかこのパターンデジャブと天が思うと、倒れる寸前で体を受け止められた。背中に当たる温もり、少し後ろを振り向けば葵の顔がそこにある。

「あ、あー……安岐くんありがとう」

「いえいえ。こんなこと、前にもありましたね」