そう言って笑う天に二人は驚いた。まさか、こうも素直に天が気持ちを言えたことに。恋愛などわからないから小説へ……と言っていた時期が懐かしい。そんな二人の目の前で天はもう諦めかけていた。リッカとエマは眉を下げて笑い、天を励ます。

「ほら、最後まで付き合ってあげるから頑張りなさい」

「天の大好きな気持ちたっぷりのチョコケーキ、安岐葵も欲しいと思うよ」

「二人とも……ありがとう」

 二人の協力もあり、天は納得いくガトーショコラを完成させることができた。それを綺麗にラッピングして自宅に持ち帰り冷蔵庫へしまう。明日が楽しみで仕方なくて、その日はなかなか寝付けなかった。

 次の日、天は朝からソワソワしていた。天だけではない、周りもだ。やはりバレンタインともなると皆浮き足立つのだなと冷静にリッカとエマが思っていると伊丹が声をかけてくる。

「お?どうした、そんな百面相して」

「いたみん……いやぁ、その」

「天がバレンタインチョコ作ったのよ」

「渡すんだって」

 言い淀む天の代わりにリッカとエマが答える。天は顔を赤くしていたが、伊丹は目を丸くして笑った。

「そうか!頑張れよ」

「……うん。でもこんなイベントでチョコあげるの初めてだからさ。なんか……照れるね、こういうの」

「そうだな。それを含めて楽しめよ」

 そうはにかむ天の頭を優しく撫でる伊丹。その表情はまるで娘を見守る父親のようだったが、それを指摘しない方がいいとリッカもエマもわかっていたのでスルーした。

「ちょっ、いたみん。撫ですぎ」

「お、悪い悪い。また安岐に睨まれるな」

 天の頭から手を離した伊丹は、あることを思いつきスマホ片手に操作をし、何やら連絡を送る。天が不思議そうにすると、スマホを戻して伊丹がニッと口の端を上げて笑った。

「今日、剣道部は部活休みにしといたわ。安岐は自主練するだろうけどな」