葵に宣言した日から(そら)は毎日小説に向き合っていた。
 基本、家にいる間はスマホ片手に座りっぱなしで、夜から朝までは机に突っ伏して仮眠をとる。時折SNSを見るが、やはりそれ以外はずっと小説を書き続けていた。

 寝る間も惜しんで取り組む天に兄である空語が何やら言いたそうにしていたが、それすら気に留めず天は思いを文字に化けさせた。

 学校では葵と接点もなく、剣道部にも顔を出さない。1週間に何回か文芸部の部室で小説を書き、そのような日だけ帰りに葵と落ち合っていた。天は約束をしたわけではないが、お互いなんとなく相手を待ち、タイミングが会えば一緒に……という流れ。

 そこで天も葵と会話してキュンを補給し、家に帰ってまた集中して書き進めるという1ヶ月を過ごした。


「っああああっ……ここまで、きた」

 天は自身が書いた小説を見ながら感嘆の声をあげる。恋愛がわからない主人公がキュンを受け取り小説に還元させて周りと盛り上がり、それが自分だけの秘密にしたいと独占欲がでて、恋と自覚する。好きと気づいても上手く伝えられない葛藤、翻弄される心。まさに自分だなと小さく笑って、天はラストシーンに挑む。

 場面的には告白。男性側からの熱烈な愛のメッセージもキャラによっては素敵だ。しかし、この主人公はお姫様でも可憐な少女でもない。自分がモデルのコンプレックスを抱える普通の女子高生。ならば、最後まで自分らしく、必死に相手に気持ちを伝えようと、そんなラストで締めくくりたいと天は強く思った。


「よし!これでいこう!」

 天は気合を入れるとスマホの画面をタップし、入力する。打ちながら何度も読み直し、誤字脱字がないか確認する。そして最後にもう一度読み直す。

「……うん!大丈夫そう」

 天は納得して頷く。そしてすぐにSNSに小説のリンクと共に投稿する。

【ついに完結したよ!みんなありがとう!】