「そろそろ目開けてや?」

 そう言って天の耳に軽く息を吹きかけるようにする。それに驚いた天は大袈裟なほど肩を震わせて飛び跳ねるようにした。

「っ!?」

「……ふふっ、ほんまにどうしようもないくらい、かわええな」

「っ、あ……あ……」

 顔を真っ赤にし目を潤ませて、声にならない声を出して天は固まってしまう。そんな天の姿に葵の心臓も高鳴り始めるが、なんとか平常心を保とうとする。しかし、そんな葵の努力を無に帰すように天が言った。

「……安岐くん」

「ん?なんや?」

「もう無理!久々に生の安岐くんってだけでも無理なのに、急に関西弁だし、変なことするし!もぉっ……おかしくなるよ!」


 涙目で訴えられ、葵は心の中でそんな顔されたらもう無理や……と困り果てる。そして、天の為にも自分の為にもこれ以上揶揄うのはやめておこうと思った。

「……それでは、そろそろ部活に戻りますね。赤音さん、見ていきますか?」

「……変なことしない?」

「しませんよ、もう。久々の俺の姿、特等席で見てください」

 そう言って葵は穏やかに笑った。天はそれに見惚れそうになるが、なんとか堪えて部活見学に集中することにした。

 葵が剣道をしている姿を目にして天は感動する。やはり、一つひとつの動作が綺麗で目が離せない。

「かっこいい……」

 天は葵のその姿を目に焼き付けようとじっと見つめる。それに気が付いた葵がこちらを見るので、視線が合ってしまった。しかし、葵は動揺することなくそのまま続ける。

「赤音さん、そんなに見つめられたら穴が空いてしまいますよ」

「あ……ご、ごめん」

 慌てて天が謝ると葵は優しい笑みを浮かべ、その後はまた練習に集中した。気づいたら葵の事ばかり考えてしまう天とは違い、頭を切り替えられる葵をすごいなと思い天は感心する。