素振り中の姿を見て思わず声が出てしまったが、そのまま観察を続けると葵がこちらを向き、目が合う。すると、葵は剣道場から出てきて天に話しかけた。

「赤音さん、そんなところから見てないで中に入ってください」

「安岐くん!えっと……その……」

 久々の生の葵を目にして天は言葉に詰まる。瞼を押さえて直視できないでいると、葵は不思議そうに聞いてきた。

「どうかしました?」

「そ、その……久々に安岐くんを見たら、ドキドキしちゃった」

 天は素直に言う。その言葉に葵の心臓も大きく跳ねる。そして目を細めて口元に笑みを浮かべた。葵のその表情が艶やかで、指の隙間から覗いていた天は思わず固まる。すると葵はわざと誘うような声音で言った。

「なんやの?照れとるん?」

「う、うん……」

「……俺もな、赤音さん見たらドキッとしたわ」

「〜っ!安岐くん、それ以上はイエローでるよ!」

 想いを伝えると決意したのにこの様は笑えると天は思ったが、仕方がなかった。葵を目の間にすると思い描いていたものが全て無意味とでもいうように、頭が真っ白になってしまうのだ。
しかし葵は動じない。天の言葉に「じゃあ」と反応する。

「どっちが先に根を上げるか勝負やな」

 そう言うと今度は葵から天に近付いた。そして耳元で囁く。

「なぁ、俺のこと見てドキドキしたん?」

 その声があまりにも艶っぽくて天は思わず耳を塞いだ。もちろん瞼は閉じたまま。その様子に葵は笑う。そしてそのまま続けた。

「……俺はな、ずっとドキドキしっぱなしやで?だって……」

「わーっ!もお、だめ!安岐くんのその声はR18だよ!」

 葵の声に天はとうとう悲鳴をあげた。その言葉に葵は「なんでやねん」とツッコミを入れるが、天はまだ目を瞑ったままだった。

 その様子に葵は少し考え、悪戯を思いつく。

「なぁ赤音さん」

「何?安岐くん?」