葵の顔を天は直視できない。そして葵がふと何かに気づいてあたりを見回し始めた。それに気づいた天もきょろきょろする。

「なに?」

「いえ、赤音さん……」

 そう言葉を区切り葵は少し天に近づいてくる。ふわっと香る葵の匂いは今試合をしてきて汗をかいてるスポーツマンなのに不思議といい匂いで、それだけで天はドキドキしてしまう。

「な、なに?」

「今日はお一人ですか?」

「そうだけど……」

「それでは送ります」

「なんで!?部員といなよ!」

「いえ、ここは他校生も大勢いますし。それに一般のお客さんも、OBなんかも多いですから……」

 葵のいわんとしてることが天にはさっぱりだった。一人でいてはまずいの?とさえ思えてくる。

「いや、いいよ。一人で帰れるから」

 天は葵の申し出に首を横に振るが、葵も譲らないようだ。

「ダメですよ。赤音さん可愛いんですから」

「かわっ……!?」

 突然の褒め言葉に天は動揺する。そして顔が赤くなるのを感じた。そんな反応に葵はクスッと笑う。

「ほら、やっぱり可愛いじゃないですか」

 そんな笑顔まで見せられたら、もうダメだと思った天だった。しかし、ここで流されてはいけない。彼は今日は大会の優勝者。そのチームの主将なのだ。自分一人が引き止めていいわけがない。

「安岐主将ー」

「あ!ほら!呼ばれてるよ!安岐くん!行ってきなよ!では、私はこれで!」

 ちょうどタイミングよく部員が葵を探す声が聞こえて天は葵の背中をぐいぐいと押した。そして、返事も聞かずに走り去る。

 天は葵の姿が見えなくなるとようやく息をついてロビーの空いているソファーに座った。

「はー、心臓に悪い」

 天は自分の胸のあたりをぎゅっと掴んで鼓動を落ち着かせる。そして今起きたことを冷静に考えた。

「試合中の安岐くんはカッコイイね」