顔は見えないが、確かに葵がいた。天の体を強く抱きしめて。何でこんな状況に!?と混乱する天。顔を前に向け、焦りつつも考える。好きな人に抱きしめられる状況に心臓は高鳴り、顔も熱くなる。

「良かったです。赤音さんがまだここにいて」

 天の耳に聞こえてくるのは電話の時と同じ声。少し安堵を滲ませた声に天は、なぜ抱きしめられているのかと疑問が浮かぶ。けれど、それよりも……天は思ったことをそのまま口にする。

「安岐くん、あの……私今すごいドキドキしてるんだけど……これ伝わってるよね?」

「はい、俺も同じですから」

 葵の言葉に天はさらに顔が熱くなった。背中越しに伝わる葵の体温が心地良い。天の鼓動はうるさいほど早いが、葵の心音も聞こえた。

「赤音さん……もっと、わがまま言っていいんですよ。俺は赤音さんのためなら、どこへでも駆けつけます」

 甘く痺れる声。天はその言葉に泣きそうになった。ずっと聞きたかった、何よりも自分が優先だと思わせてくれる言葉。こんなにも大事にされてるんだと天は改めて思い、でも、このまま葵だけに言わせてはダメだと自分を奮い立たせる。

「安岐くん、ありがとう。うれしい、すごく。私……安岐くんが隣にいてくれるって、当たり前に思ってたみたい」

 天の言葉に葵の腕に力がこもったのがわかった。天はその腕に手を添えて続ける。

「わがまま言っていいかな。私とイルミ見てくれる?安岐くんと一緒に見たい」

 勇気を振り絞り出した言葉。天はじっと葵の反応を待つ。そして、葵が天を抱きしめる腕を解いて一歩離れた。その時、天はパッと振り返り葵を見る。そこには穏やかな笑顔を浮かべた彼がいた。

「喜んでお受けします」

 その言葉に天の顔も自然と笑顔になる。今この瞬間だけは自分を見てくれてることに幸せを感じた。すると……

「赤音さん、行きましょうか」

「え、どこに?」