もう言ってしまおうか。でも急に気持ちを伝えて引かれたらどうしようと天は不安にかられる。そんな天の様子に気づいた葵が優しく微笑んだ。その顔を見て天はもう胸が苦しくて、思わず葵の首に腕を回した。より密着する体に天だけでなく、葵もドキッとし天を見つめる。


「大胆やな、赤音さん」

「っ……!」

「そない必死にしがみつかれたら、たまらんわ」

 少し低くなった葵の声に天はまたドキッとする。視線が重なる。葵は天が次に言う言葉を待っているかのようにジッと待っていた。

 もう駄目だ。この気持ちを抑えきれないと天は思った。もう言ってしまおう。ちゃんと気持ちを伝えて素直になろう、そう決意して口を開いた瞬間ーー

 キーンコーンカーンコーンと夕方四時のチャイムが鳴る。天はハッとして慌てる。反対に葵は口元に弧を描いていた。

「残念。もうちょい、このままでよかったのに。でも、ちょうどええ時間やな。……これ以上やと、俺が抑えられんわ」

「え……安岐くん?」

 葵の呟きに天は反応する。しかし葵は笑顔で躱し「赤音さん」と天の名を呼ぶ。

「誕生日、おめでとう」

「うんっ、ありがとう安岐くん」

 天は満面の笑みでそう返して、葵の腕から降りる。今日は貰いすぎなくらいだとドキドキとうるさい鼓動を落ち着けて、葵の方を向いた。

「一緒に帰ろう」

「ええよ。ちょお待っててな?」

「あ、まだ関西弁で喋ってくれるの?」

「誕生日プレゼントやから。特別大サービスや」

 天はその言葉を聞き、嬉しそうにする。葵もそんな天を見てつられて笑う。そして最終下校のチャイムが鳴り終わると同時に二人は道場を出た。