言いながら天は我に返り、慌てて訂正した。思わず何言ってんだと一人ツッコミしたくなる。そんな天の様子に葵は一瞬呆けていたが、クスッと笑うと手に持っていた竹刀を床に置く。

「失礼しますね」

「へ?……ちょっ、ええ!?」

 葵は天の腰に片手を回し、もう片方は膝裏に入れて、ひょいっと簡単に天を持ち上げた。身長差があるのに、自分より背の高い天を余裕で抱っこできるのは運動部の筋力の賜物か。
 そんな状況、まさかのお姫様抱っこに天は恥ずかしくて顔を真っ赤にし、動揺した。

「え?ええ!?安岐くん……っ!あの、自分で言ってなんだけどこれめちゃくちゃ恥ずかしい」

「あははは、顔真っ赤ですよ赤音さん」

 葵に指摘され天はますます赤くなる。そしてすぐ降ろしてと言おうとして言葉を詰まらせた。

 ーーあ、れ?どうしよう。

 恥ずかしさで戸惑っていたから気がつかなかったが、葵との距離が近いことに今更気づいてしまった天。いつもと違う同じ目線の距離感に天の心臓の音がどんどん早くなる。

「ん?どうしました?赤音さん」

「えと、その……」

「まだ、何かして欲しいことがありますか?」

 そう目を合わせて聞いてくる葵。天はこれ以上欲張っていいのかと思いつつ、好きな相手からの申し出にここぞとばかりに願望を呟いた。

「……関西弁。関西弁で喋ってほしい、です」

 自分でも何てお願いをしてるんだと天は思ったが、して欲しいことに素直に答えてしまったのだから今更仕方がなかった。葵は天が恥ずかしがってるのがわかり、おかしそうに笑いつつ方言で話す。

「ええよ、お姫様」

「……っ!」

 天は思わずキュンとした。もうこの一瞬で葵の虜になったと言っても過言ではない。しかし、まだ足りない。もっと欲しい。そう欲張りになる自分がいる。

「あ、あの!安岐くん……私ね」

「うん?」

「その……」